今日もまた、憂鬱な時間がやってくる。
私が、普通でないことを思い知らされるひと時が
外の世界には出られない。
ただ、毎日数人の男が私の前に、現れるだけ。
皆、私を打ちのめす事だけしか考えていない。
直接会うまでは、私を見ることもないため
皆同じように、にやけた顔でマジックミラーの向こうにいる
ここは、最悪の犯罪者が送り込まれる刑務所
この国には死刑がないため、極刑に処せられるものは
皆ここに集められる、そしてここで刑期を勤め上げて
社会に出る前に、1つの試練が与えられる。
最後に、闘技場で戦うこと。 ただそれだけ
勝っても負けても、どちらでもいい
その相手が私。
最後の戦いの日に受刑者は、対戦相手の写真を渡される
その写真は、年の頃なら17〜8歳前後、黒髪のかわいい少女と
呼べるであろう写真を見せられる。
そして、勝利者にはこの少女をどうにでもしていいと言い渡される
中には犯罪を本当に悔やみ、この上そんな少女に何を・・・
という者も現れるが、ほとんどは長い受刑生活に
禁欲を強いられているため、舌なめずりしながらそれを受け入れる
前者にはさらに数年の刑期を与え、他所へ移送され
後者には数時間の後に、戦いが始まることを告げられる。
私はその男たちを、相手にするためにここにいる。
毎日毎日、数人の男と戦わねばならない。
マジックミラーの向こうには、その戦いの後を
想像しながら、上気する男たちが肉体を誇示している
看守たちよりも、大きな男が多い。
中には2Mを軽く超えている男も見受けられる。
勝った後のことしか考えていない男たちには
相手の女の子が一人であることを不思議に思う冷静さはなかった
自由の身と共に、少女を弄べるただそれだけしか考えてはいなかった。
時間が来た。私はゆっくりと立ち上がり、男たちとは正反対の
位置にある長い通路を進んでいく。
男たちは、その部屋から階段で闘技場へと進む。
闘技場は円筒形の筒のような形で、その高さは10mを超え直径は50m
いくつかの金網でカバーされたマジックミラーが見られるだけだった
男たちが階段を上り、闘技場に入った瞬間、その出入り口は堅く閉ざされた
そして、数分の後に正反対の位置にゆっくりと穴が開き
そこに少女が、せりあがってくるのが見て取れた。
50m離れてるとはいえ、その少女が写真の少女であり
その容姿は写真に勝るとも劣らないものであろう事は見て取れた
ただ、何かが違和感をもたらす。とはいえ獲物が現れ
早い者勝ちといった雰囲気が男たちに、冷静な判断を下す暇は与えなかった
少女がせり上がりきる前に走り出す男たち。
少女は生まれたままの姿で、一切何も身にまとっておらず
男たちの冷静さはさらに失われていった。
後20mほどに迫ったところで、6人の男たちのうち
4人が異常に気がつき、そこに立ち止まった。
後の二人は気にもせずに距離を詰める
そのうちの一人はさっきの2mを越す大男だった
10mほどまで近づいたとき、その二人も急制動をかけ
その場に留まった。 そして少女のほうを見る
いや、見上げるといったほうが正しかった。
大男ですら少女の胸に届くかどうか怪しかった
もう一人の男、決して小柄ではないが
彼女のへそに届くかどうか、それくらいの身長差はあったのだ
少女は男たちを悲しそうに見渡し、その場でため息をついた
それを見た大男は、でかいとはいえ小娘に馬鹿にされたと思い
怒りに任せて、少女に向かった突進をし始めた
その男の突進はすさまじく、普通の人間なら
軽く引き飛ばされて、壁に激突し再起不能になろうという
それほどの威力を感じさせるものであった
数秒後、恐ろしいほどの肉体と肉体がぶつかり合う音が響いた
男たちはその破壊力に、少女は吹き飛ばされ倒される様を想像した
しかし、少女はそこに立っていた。男は少女の腹部に張り付いていた
少女はけだるそうに、男めがけて握りこぶしを振り下ろした
こぶしは男の肩に当たり、そのこぶしの下がるまま
男の肩は下にずれ落ちていった、もう一方の肩はそのままにして
男が少女から離れたとき片方の腕は、腹の位置から生えているようだった
大量の血を口から噴出させて倒れこむ大男、その頭を片手でつかみ
自分の目線に持ち上げる少女、空いている手で軽く男の胴を水平に
チョップを打ち込む。 豆腐に手を置くように男の胴にめり込む
背骨などないように食い込む手、片やつかんだ頭はその握力に耐え切れず
びしゃっという音と共に握りつぶされていた。
少女は何事もなかったかのように、男を足元に投げ捨てる。
一歩踏み出し、無傷の上半身に素足を重ねる。
次の瞬間には、骨の砕ける音だけが闘技場に響き渡った。
大男と共にあった男は、もはや動けなかった
腰は抜け、足は振るえその場に立っていることが精一杯だった。
少女はその男を見、歩を進める。 蛇に睨まれた蛙 そのままであった
少女が立ち止まって、片足を上げ地面を踏みつけた。
1m先にいた男はその振動で我に帰り、その場にへたり込んだ。
男は泣いていた、声は出せなかったが嗚咽は漏れていた
両目から大粒の涙を流し、少女を見上げた。
その目は許しをこう幼子のそれであった。
少女はにっこりと笑うとその男の上半身を片手でわしづかみにした
いかに小さいとはいえ、片手ではあばら骨を何とか覆うほどであったが
その握力と腕力は、男をたやすくつかみ上げ宙に浮かせた。
あまりの痛みに男は悲鳴を上げた、少女はそれが気に食わなかった
この小うるさい生き物を、すばやく静かにさせる方法
もう片方の手で、背中にこぶしを打ち込んだのだ。 ぱしーん
しかし、その音は少女が自分の手にこぶしを当てる音しかしなかった
男は静かになった、つかんだ手を離すと男の胸には少女の
こぶしの形が胸にあった、薄い皮で覆った少女のこぶしがあった
こぶしの上に男の顔が乗っかっていた。
少女がこぶしを開くと、その薄皮は裂け3つの部品が地面に落ちた
2本の腕と腹から下、頭はこぶしの上に残った。
その頭を右手でつかみ、壁にめがけ投げつけた。
後には赤い染みだけが、壁に張り付いていた。
残る4人は、少女から一番遠い壁に固まって震えていた。
それを見て少女は大きくひとつ、ため息をついた。
そのため息にも、4人はびくついていた。
空腹感を覚えた少女は、早くこの嫌な時間を済ませたかった。
男たちを見つめたかと思うと、少女は駆け出した
30mは3秒とかからなかった。
2人の男はその瞬間走り出し少女から逃れようとした
残った2人はその場から動けず、その場に残った
残った男2人は、壁と少女の間に挟まれそのまま染みとなった
左右に逃げた二人を、腹立たしく睨みつける少女
走って逃げるといっても、円筒状の闘技場50m離れる事しかできない
さらに恐怖で、まともには走れなかった。
男は、少女が壁に激突する振動と音を後ろに聞いた。
少しは距離を開けたかと振り返った瞬間、真上からの大きな手のひらが
男の視界を奪った。 男には腹から上にあるものはもはや何もなかった
ただ彼女の手のひらと、その間に押しつぶされた上半身であったものを
のぞいては・・・
少女は最後の一人を見た。対角線上にへたり込み薄ら笑いを浮かべている
もはや狂うことでしか救いは求められなかったのである。
その男との距離10mまでを4秒ほどで詰め、残りはゆっくりと
歩いて近づいた、これが今日の最後だ、少女はにっこりと微笑んだ。
男をそっと抱え上げ、片手で壁に軽く押し当てる
もう片手は握りこぶし、宙に浮いた男の右足に打ち込む
ずごぉぉん 鉄の外壁は少しへこむ腿の中ほどから下が地面に転がる
左腕めがけ打ち込む ずごぉぉん 肘から先が地面に転がる
左足に打ち込む ずごぉぉん 右腕に ずごぉぉん
少女はささえていた手を離す、男の体は壁から生えているかのように
落ちもしなかった、少女は壁から生えた男の顔を平手ではたいた
ぱしっ という音と共に男の頭は破裂し染みとなり
その勢いで体はくるくると中を舞い、地面にたたきつけられた。
その瞬間、少女の出てきたせりの後ろが開きはじめた
直径50mの筒の上には、青空が広がっていた。