2006年06月20日

アン・ボニー − 18世紀初頭のカリブ海を暴れ回った女海賊


ffac4b6a.jpg女海賊アンの処刑は記録に残ってなかったか?
「世のへなちょこ男への見せしめのため、とっとと吊るしな!」と啖呵をきって果てたというのは、論者の記憶ちがいだったようだ。
大方、多くの映画等で描かれる彼女のどれかが頭にこびりついてたのだろう。

過去稿で幾度か閉鎖社会におけるサディズムの発露例に論及んだ。
閉鎖空間の上逃げ場のない地理的条件にある社会は尚更、人間が潜在的に、顕在的に持つサディズムが暴走する事例が多い。
例えば鉱山だ。仲間一人を集団で殴り殺し、その場に埋めて全員で口裏を合わせたという(大昔の)事件証言はしばしば聞かれる。
そして船。こちらの方がより…
海に投げ込んでしまえば、山のように掘り返して死体が出てくるわけでもないのである。

さて、アン・ボニーのそんな『職場』はどんな世界であったのか?
童話のピーターパンでも思い返すか。フックの海賊船の章である。
先ず、このフック船長、右手が手首より先が欠損しており、義手として鉄鉤をつけているという人物設定だ。
甲板を掃除する日常風景で船乗りたちの紹介がされ、いよいよフックの段に。

「船員の一人がフックとぶつかり洒落者の彼のレースの襟をくしゃくしゃにしてしまうとしよう。
ははは、と笑った船長は、右手鉄鉤を船員の頭にかけ真っ二つに裂く。
他の船員たちは、断末魔を残し絶命した船員の死体をザブンと海に放り込み、何事もなかったかのように甲板掃除を続ける」

こんなところであったか?
ついでに書けば、フックの右手を切り落としたのはピーターパンだ。
ピーターは面白半分、切り落としたフックの右手を下にいたワニに与えるのである。
フックの血の味を覚えたワニは以降『本体』を狙って追い続け、最後またしてもピーターパンの与力でその宿望を適えることになるのだか。
今思い出せば、よくもまあこんな残酷な話が、子供向けファンタジーの名作として全世界の少年少女に読み継がれているものだ。
改めて、子供とは残酷好きなもの、との感を深めるところである。

元に戻す。
童話は童話としても、全くの荒唐無稽、事実無根の作り話というわけでもなかろう、騙し易そうで案外と騙せないのが子供である。
海賊社会とは、さしたる理由もない人殺しなど日常茶飯の世界であったことは間違いはあるまい。アンが殴りこんだのは、かくも殺伐とした男社会なのである。
そんな海賊家業に身をおき、女人禁制の掟などなんのその、名をなした彼女の日常は押して知るべし。
そして、その心裏も自ずから量り得るというものだ。

実力主義の建前が通じるのは無法者の社会だけ、よく言われる。