最終話『出席番号のない少女』 



1 前夜1

「つーか私のいるクラスうざったてー。」

少女はキーボードたたく。

 「エロい事考えてご飯に鼻血垂らすわ、
  下品な愚民や
  失礼でマナーを守っていない奴や
  喧嘩売ってきて買ったら「ごめん」とか言って謝るヘタレや」

いつものウェブ日記。
今日は際限がないようだ。

 「高慢でジコマンなデブスや
  カマトト女しったか男、
  ごく一部は良いコなんだけど大半が汚れすぎ。」


2 前夜2


ここで少女の手が止まる。
ふーっ… 
ひとつため息を付き、筆入れを開ける。
一振りのカッターナイフ。
替え刃を装填し、カチカチ音を鳴らした少女は再びキーボードを打ち出す。

 「寝言言ってんのか?って感じ。
  顔洗えよ。」

あいつだな…
一人ごつる少女。
なにやらふっきれたようである。

そしてPCの電源を落とし、お気に入りのブランド黒パーカーからパジャマに着替えた少女は眠りについた。


3 profile


作者である。
今日の主役については、プロフィールの紹介をしてなかった。
実はこの少女、出席番号がないのである。
それだけではない。本名を出すのが憚られるのだ。
それもこれも、この物語で語る事情によるのだが、ともかく少女とのみ呼称して進めよう。

少女は5年生のころは、お付き合い程度に男子いじめに加わる影の薄い存在だった。
しかし6年に進級したころから、その凶暴性とともに奇行が目立ち始める。
とはいうものの、それはこのクラスのことである。
特段の話題になることもなく、日常は推移していった。

ちょうどその日も何事もなかったように。
ということであるので、舞台を戻そう。
物語は給食の時間である。
少女と相沢智恵理の姿がない。
聞けばちょっと前に二人連れ添って教室を出て行ったとのことであるのだが。
そろそろ教室が騒がしくなってきたそのときだった。


4 そして…


NEVADAガラッ・・・教室の前扉が、唐突に開く。少女が戻ってきた。

「どこ!?・・・」まで言いかけたところで、担任沼田は口をつぐむ。
なんと! 少女は服も体も血だらけだったのである。
ドサ!・・・携えてきた物体を投げ出した少女は、ゆっくりと右肩を回す。

!!!!
・・・生首・・・

つい40分ほど前に少女と一緒に教室を出て行った、相沢智恵理の変わり果てた姿・・・
あまりの出来事に言葉を失う一同を、けだるそうに見回した少女は、ポケットからカッターナイフを取り出し、替え刃を装填した。


5 終劇

 ・・・・ここで作者の筆が止まった。
読者の皆さんにはお詫びしなければならないであろう。
本名で呼ばれることのなくなった件の少女がこの後、次々と一同に斬りかかり更に14名を殺害し担任以下7名に瀕死の重傷を負わせる様子、警察病院に搬送さ れる車中「私の血じゃない…」と痴呆(こけ)のように繰り返す光景… つぶさに描かなければならないのに……
どうしても筆が進まない、長きに渡り語り続けた可愛い子供たちの非業の死を、これ以上描くことに耐えられないのである。

読者の皆様にありったけの感謝の気持ちを表しながら、作者は筆を折ることにする。どうか作者の弱い心を哀れみ願いたい。
できることならもう一度『5年〜』第一話から、お読み返し頂き、何ゆえこのような悲劇的結末になったかを共に考察願えるのなら。
そしてそれが、現行小学校制度の諸問題検討の世論惹起になろうものならば、作者望外の仕合せである。

(おわり)